電気主任技術者不足|電気保安業界の現状・見通しをお伝えします

2021年04月02日

「電気主任技術者」は、事業用電気工作物の保安・監督を務める仕事であり、事業用電気工作物を運営するのであれば欠かすことのできない専門職でもあります。

しかしこの電気主任技術者が、将来的に不足するのではないかと考えられています。

電気主任技術者の現状と見通し、そして「電気主任技術者が不足するかもしれない」といわれている原因についてみていきましょう。

1. 電気主任技術者不足の現状と見通し

電気主任技術者は、冒頭でも述べたように、事業用電気工作物の保安・監督を生業とする仕事です。

詳細については別の記事によりますが、電気事業法において、電気主任技術者なしにはその運用が認められていない事業用電気工作物は非常に多く、正常で適当な電気の運営を考えるうえで電気主任技術者は欠かすことのできない職業だといえます。

しかしこの電気主任技術者が、将来的に不足するとして指摘されています。

この問題が大きな注目を受けたのは、2019年の9月から複数回にわたって行われた「電気保安人材・技術ワーキンググループ」でしょう。11月25日の中間発表では「2030年には電気主任技術者が2000人以上不足する」という衝撃的な見通しが発表されました。

しかもここでいう「電気主任技術者」とは、電気主任技術者資格のなかでももっとも下位である「第三種電気主任技術者(電圧50000ボルト未満の事業用電気工作物の監督・保安にあたることができる。ただし、出力5000キロワット以上の発電所は除外)」のみを対象とした算出です。さらに高度な資格である「第二種電気主任技術者」「第一種電気主任技術者」を計算に入れると、もっとその不足数は多くなるでしょう。

このような現状を打破するための方法を考えるためには、まずは、「なぜこのような状況が起きているのか」を把握しなければなりません。

2.電気主任技術者不足の原因

電気主任技術者不足の原因は、いくつかあります。

2.1 電気主任技術者の試験の難易度

まず、「難易度」が挙げられます。

原則として電気主任技術者の資格を取得するためには、試験の合格が必要です。第3種の合格率は、科目合格で30パーセント程度、4科目合格率は10パーセント程度です。

第2種の1次試験での合格率は、科目合格で50パーセント前後、4科目合格率で30パーセント前後です。また2次試験の合格率も30パーセント前後です。

第1種の1次試験での合格率は、科目合格は50パーセント程度、4科目合格率は20~30パーセント程度、2次試験の合格率は15パーセント前後です。

これだけでも難関資格だということがわかります。

なお認定校を卒業しており、かつ単位をきちんと取得していれば試験は免れる可能性はありますが、認定で取る場合は実務経験が必要になります。

2.2 電気主任技術者の知名度

そもそも、「電気主任技術者という仕事自体の知名度が低い」という問題も指摘されています。

電気主任技術者は、電気に関わる業界で働くのであれば知っておくべき専門職・資格のうちのひとつです。

実際、「身近に電気主任技術者がいたから、電気主任技術者という資格(職業)を知った」という人は多くみられます。認知のきっかけとして「親族」を挙げた人が36パーセントもいます。また、「前職で知った」という人が14パーセント程度存在します。

これは、裏を返せば、「親族に電気主任技術者がいなかった」「前職などで電気主任技術者を知る機会がなかった」場合、電気主任技術者という資格(職業)をなかなか知ることができないともいえます。

このようなことから、電気主任技術者の資格(職業)の知名度はそれほど高くなく、また高くするのが難しい状況にあるといえます。それによって電気主任技術者の資格を取る人・電気主任技術者の職に就く人が少ない状態になっているのです。

2.3 電気主任技術者不足

電気主任技術者不足の可能性についてもう少し踏み込みましょう。

電気主任技術者については、外部委託向けの3種と、遠隔地の再エネルギー設備向け(特に大規模太陽光発電メガソーラーなど)の2種が不足する可能性があると考えられています。

さらに、有資格者の高齢化もこのような問題に拍車をかけていると考えられます。

それでは、新しく資格を取得することになるであろう若年層世代においてはどうでしょうか。

電気主任技術者の資格をとるうえで非常に有用となる「認定校」という選択肢ですが、実はこれは、2012年から少しずつ数が減っていっています。

認定校は電気主任技術者の供給源となっていましたが、その数が減り、また生徒も減っていっています。

さらに、「認定校を卒業した生徒であっても、電気保安業界以外の企業へ就職する」という選択肢をとる者が多いという現状もあります。認定校を卒業した生徒はニーズが非常に高く、鉄道会社なども選択肢に上がります。また、生徒らのなかでも、大手やインフラ業界への就職を望む声が非常に多くみられます。第1種認定校のうちのひとつの大学では、「2016年の電気電子工学科のうち、保安業界の就職者はわずか3パーセントにすぎなかった」というデータを挙げています。

出典:経済産業省「電気保安体制を巡る現状と課題」

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_jinzai/pdf/001_03_00.pdf

2.4 電気設備の増加

受電設備は毎年徐々にその数を増やしていっています。

たとえば、第2種・第3種の電気主任技術者が必要な設備を例にとりましょう。

2010年にはそのような受電設備は831,000件でしたが、2013年には853,000件になり、2016年には862,000件になっています。今後もこの傾向は続くとみられ、2030年には909,000件、2045年には929,000件になると考えられています。

地球環境のことを考えるうえでも非常に重要になってくる再エネ設備は、今後も増え続けていくと予想されています。業務ビルなどを主な対象とする外部委託向けの第3種の場合は不足するということを考えれば、決して「電気主任技術者が余る状況」にはならないとみるのが現実的です。

3.経済産業省の対策

ただ、このような事態に対して、国(経済産業省)もただ漫然と手をこまねいているわけではありません。

さまざまな対策を打ち出しています。

3.1 認知向上施策

そのうちのひとつが、「認知向上施策」です。「電気保安・電気工事業界の認知度向上・入職促進に向けた協議会(案)」という名称のもので、ポータルサイトの解説や広報事業、収益事業の導入などを段階的に行っていく施策です。

「まずは知ってもらい、そしてそれによって保安・監督業務を受け持つ電気主任技術者を増やす」という試みです。

3.2 オンライン学習制度の検討

電気主任技術者として働く、あるいは電気主任技術者の資格の取得において、認定校制度は非常に重要な位置を占めています。

しかしこれは同時に、「認定校に行かないで電気主任技術者の資格を取得しようと考える人」のハードルになっているのも確かです。電気主任技術者の資格は、認定校などで学んでいない人にとってはやや難易度が高く、またその学習の機会も限られています。

このことから、経済産業省では、”柔軟な学習環境を提供することで電気主任技術者を目指す層の拡大を図るとしています。

引用:経済産業省「電気保安体制を巡る現状と課題」

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_jinzai/pdf/001_03_00.pdfP4”

オンライン学習制度を構築・提供することで、社会人がより効率よく電気主任技術者資格取得のための勉強をできるようにしているのです。

新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延もあり、この「オンラインでの学習制度」は今後ますます需要を高めていくと考えられます。

4.電気主任技術者の働きがい

最後になりましたが、電気主任技術者資格のためのモチベーションを維持するためには、何よりも「電気主任技術者の働きがい」に改めて注目することも重要です。それをはっきりと意識することこそ、難関資格のひとつである電気主任技術者の資格取得に向けた勉強意欲を掻き立てる原動力となるからです。

まず、電気主任技術者の資格を認定取得以外で目指した場合、その資格取得の達成感が非常に大きいといえます。難易度の高い資格であるため、満足感や充足感を得られるでしょう。

また、電気主任技術者の仕事は、「永遠に需要のあり続ける仕事」です。電気主任技術者の資格を持っていれば、少なくとも「仕事がなくなった!」という状況に陥ることはありません。新型コロナウイルス(COVID-19)に代表されるような疫病が蔓延しても、エネルギーの供給源が変わっても、電気のニーズと、その電気を保安・監督する電気主任技術者の仕事は常にあり続けます。

さらに、電気主任技術者は「現役を引退した後でも働き続けることができる仕事である」という点もあります。体力も必要ありませんから、自分が望む年齢まで働き続けることができます。「働くこと」は、単純に「金銭を得ること」だけではなく、自己実現や社会貢献、自己承認欲求を満たすことなどにもつながり、豊かな人生を得るための手段にもなり得ます。

私たちの生活を支える「電気」に携わる電気主任技術者(資格)は、それを生業にする人の生活と精神を支えるための力ともなるのです。

電気技術者記事一覧へ