電気主任技術者の資格は、電気の業界で生きる人の目指すべき目標のうちのひとつだといえます。
今回はこの電気主任技術者の資格について、より細かく解説していきます。
1. 電気主任技術者資格の概要
詳しくは後述しますが、電気主任技術者は、事業用の電気工作物を扱うことを仕事とする者またその資格を有する者を指す言葉です。
この「電気主任技術者」を名乗るためには、資格試験を突破しなければなりません。その資格試験の名前を、「電気主任技術者試験」といいます。
なお電気主任技術者試験は、「電験」とも略されます。ここでは今後は、特段の事情がない限り、「電験」の名称を使って解説していきます。
1.1 電気主任技術者の業務
電気主任技術者の仕事は、事業用電気工作物の電気設備の保安および監督です。
電気主任技術者はしばしば「電気工事士」と混同して語られます。しかし電気主任技術者と電気工事士はその性質が異なるものです。
電気工事士は電気関係の「工事」を行うことを主な職務としますが、電気主任技術者の場合はあくまで保安・監督を仕事とします。
電験を突破することで電気工事士の資格を取得する際の学科試験などが免除されますが、実技試験は免除されません。
「電気主任技術者は、電気工事士の完全上位資格である」とはいえないので、この点には注意しておきましょう。
なお、電気を扱う現場で働く人のなかには、電気工事士と電気主任技術者の両方の資格を持っている人もいます。
1.2 電気主任技術者は国家資格
電気主任技術者は、一般財団法人である「電気主任技術者試験センター」が取り扱っている資格であり、国家資格に分類されます。
事業用電気工作物を保安・監督ができるのは電気主任技術者のみであり、これは電気主任技術者の独占業務です。
「どのような事業用電気工作物か」によって多少法律は異なりますが、事業用電気工作物においては電気主任技術者の保安・監督が必須です。そのため、電気主任技術者は事業用電気工作物の運営に欠かすことのできないものであり、社会的評価も高い仕事といえます。
ちなみに電験は、1896年に制定されました。実に125年もの歴史がある資格なのです。
2.資格の分類
電気主任技術者は。
・電験1種
・電験2種
・電験3種
の3つに分類されます。
それぞれ見ていきましょう。
2.1 電験1種。電験2種、電験3種でできることの違い
電験1種(第一種)と電験2種(第二種)、そして電験3種(第三種。今後、これ以降はすべて「3種」などのように記す)ではそれぞれ取り扱える電圧が異なります。
電験1種……扱えない事業用電気工作物はない
電験2種……扱える事業用電気工作物は、電圧が17万ボルト未満のものに限られる
電験3種……扱える事業用電気工作物は、電圧が5万ボルト未満のものに限られる(※出力が5000キロワット以上の発電所は扱えない)
このことからも分かるように、電験1種は電験2種の、電験2種は電験3種の完全上位資格です。
なお電験は、受験資格として「下位資格を持っている者」という規定はありません。そのため非常に難易度は高いのですが、電験3種も2種も持たず、いきなり電験1種に挑戦して取得することも、制度上は不可能ではありません。
2.2 電験1種。電験2種、電験3種の試験の難易度
電験の試験の難易度(合格率)は以下のようになっています。
なお、第1種と第2種は1次試験と2次試験があります。第1種と第2種は、1次試験を突破した者にのみ、第2試験の受験資格が与えられます。第3種は1次試験のみです。また1次試験は合計で4つの科目から成り、それぞれで科目合格があります。
合格率は直近のものとしています。
1次試験4科目合格率 | 1次試験科目合格率 | 2次試験合格率 | |
第1種 | 50.3パーセント(※例年は20~30パーセント程度) | 42.3パーセント | 14.4パーセント |
第2種 | 27.2パーセント | 48.9パーセント | 27.9パーセント |
第3種 | 9.8パーセント | 30パーセント | ― |
※令和2年の第1種の1次試験4科目合格率は50パーセントを超えているが、これは過去24年間でただ1回のみの割合。通常は20~30パーセント前後での推移である
なお、3種は比較的窓口が広く、さまざまな人が受けます。対して2種や1種は、一般的に「3種をとった人」が受けるため総じて受験者のレベルが高く、また1種を受ける人は仕事上必要な人が多いため、合格率が1種>2種>3種になると考えられます。
出典:
一般財団法人電気技術者試験センター「第一種電気主任技術者試験」
https://www.shiken.or.jp/situation/s-chief01.html
一般財団法人電気技術者試験センター「第二種電気主任技術者試験」
https://www.shiken.or.jp/situation/s-chief02.html
一般財団法人電気技術者試験センター「第三種電気主任技術者試験」
https://www.shiken.or.jp/situation/s-chief03.html
3. 電気主任技術者資格の取得方法
電気主任技術者の資格取得の方法として、
・学科試験の合格
・認定校の扱い
について解説していきます。
3.1学科試験の合格
電験には、「学科試験」があり、「学科合格」があります。
これは電験1種・電験2種・電験3種のすべての1次試験にみられるものです。
電験の1次試験は、すべて下記の4科目から成ります。
・理論科目
・電力科目
・機械科目
・法規科目
もちろん初回のテストですべての科目に合格すれば、1種と2種では2次試験に進めますし、3種の場合はそのまま資格取得となります。
しかし電験の場合は、「科目合格」の制度があります。
これは、たとえば、「理論科目では不合格だったが、電力科目では合格点に達していた」などのようなものです。
この場合、次の年とさらにその次の年に試験を受けた場合、合格した科目は試験が免除されます。
例:
1.2020年に、「理論」に合格。ほかの2つが不合格
2.2021年は「理論」は免除。「電力」「機械」「法規」を受けて、「機械」に通った
3.2022年は、「理論」「機械」は免除。「法規」が通って、「電力」が不合格だった
4.2023年は、「機械」「法規」は免除。「電力」を受けることになり、「理論」も受け直しとなる
つまり、「3年間の間に4科目に合格すればよい」ということになります。
なお科目合格があるのは1次試験のみです。
1種と2種の場合は2次試験として、「電力・管理」と「機械・制御」の2科目がありますが、こちらには科目合格はありません。ただし、「1次試験はすべて受かっているが、2次試験に落ちた」という場合は、翌年度の1次試験は免除されます。
3.2認定校の卒業と実務経験
電験の取得を語るうえで、決して外すことのできないキーワードが「認定」「認定校」です。
電験には受験資格はありません。しかし合格率からみても分かるように、決して簡単な試験ではありません。しかし一部の人にとっては、非常に簡単に取れる資格でもあります。
そのキーワードが、「認定」「認定校」です。
経済産業省が定める「認定校」と呼ばれる学校が全国にあります。工業高校あるいは大学、専門学校が「認定校」に定められています。
まず、3種を見ていきましょう。
上記で述べた「理論」「電力」「機械」「法規」の4科目の単位をここで取得し、1年~3年(※認定校卒業後大学に進んだ場合は1年、認定高校を卒業した場合は3年)の実務試験を経れば、無試験で電験3種を取得することができます。
また仮に、「理論と電力、機械の単位は取ったが、法規のみ取っていない」という場合でも、法規のみを受験―合格すればよく、試験の難易度は大きく下がります。
2種の場合は、「認定校である専門学校や短大、大学で単位を取得し、かつ5年以上の実務経験があること」が条件となります。
1種の場合は、「認定校である大学で単位を取得し、かつ5年以上の実務経験があること」が条件となります。
難易度の高い電験において、「認定校で単位を取得しておけば、無試験で資格を取れる」というのは非常に大きなメリットです。そのため、認定の工業高校などを卒業している人の場合、非常に若い人であっても、電験3種を取得することは容易です。
ただし、「一般受験の場合は実務経験は問われないが、認定で取得する場合は実務経験が必要であること」は押さえておいてください。
4.資格をとるメリット
電験に限ったことではありませんが、資格を取ることによってさまざまなメリットがあります。
電験を持っていると、定年退職後の仕事先に困ることがないといわれています。基本的には監督・保安を業務としますから、体力のない人でも務まりやすく、体力的な負担もありません。
「ある程度実務経験を持っており、そのなかで電験を取った」という場合は、転職活動も行いやすいでしょう。「電力」は私たちの生活に欠かすことのできないものであるため、実務経験+専門資格を有していれば、現役世代の転職や就職のときにも役立ちます。
また、電気に関わる仕事をしていく人の場合、電験を持っていることで評価が高まるというメリットもあります。